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第14回 「待兼て」杜若一枚摺 2006. 6. 5


縦22.3×横16.8cm






 「立てばシャクヤク、座ればボタン、歩く姿はユリの花、いずれがアヤメかカキツバタ」書き取りの問題ではない、と断って学生たちに紙をまわして見てもらったが、どうもピンとこないらしい。そこで「立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花、いずれが菖蒲か燕子花」と繰り返して音読したが、これまた不発であった。若者は、シャクヤクもボタンもあまり好みではない様子、アヤメと燕子花(杜若)が似ていることも気にならないらしい。しかし、女性を花にたとえた言い回しだから、ほめ言葉のつもりであっても、うかつに発言すれば「セクハラ」となりかねないから、知らない方がいいのかもしれない。



 掲出した「待兼ねて座敷開きや杜若」の作者雫月、絵師胡蝶園春竹とも分からないが、活花が流行した江戸中期以降の一枚摺だろう。『源氏活花記』(明和二年刊)には、花瓶に活けた「杜若(かきつはた)」の図にそえて、「紫燕花(しゑんくは)「燕子花(ゑんしくは)」「杜菖花(としやうくは)」「貌吉花(かほよはな)」の異名を掲載している。別の活花本(書名・刊年未詳)「燕子花さし方」によれば、「葉はことごとくとりはなして別にくむなり」とある。手がこんでいることを改めて知らされた。

  葉を一枚ずつ切り離して活けたのかどうか、掲出した絵からはわからないが、句にいう「夏を待ちかねて、杜若を活けて座敷を開く」のは、賓客を待つからだ。

  こんな風にして待たれる人は、どんな人だったのだろうか。