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第21回 白元「黄鳥や音しておかし」2008. 2. 1


縦19.4×横17.5cm






 平成20戊子(つちのえね)の年が明けた。子年は財を築き、繁栄の力を招くというらしいが、どうも荒れ模様らしい。「そんなの関係ねえ……」と庶民は叫んでも、政治や経済が結局は私たち庶民の暮らしを脅かすから油断ならない。コマ鼠のように働いて「じっと手を見る」ほかないのだろうか。


 今回は132年前の明治九年丙子の一枚摺を紹介したい。俵に乗っている白鼠の図柄で、まことにめでたい。俵は大黒様をイメージして、「鼠は大黒天の使者」「鼠は福の神の使」という意趣なのだろう。この絵師を「幸水」と読んでみたが、自信がない。
  白元と亀明は、『新撰俳諧年表』にも見あたらず、江戸の名残の旧派の俳諧師だろうとは思うものの、どんな経歴の人かわからない。どなたか教えていただきたい。「黄鳥(うぐいす)」が鳴くことを「音して」と言い、「落して」とかけて、竹の雪を鳴き声で落した、ということだろう。「ふたつよい事は」の句は、よくわからない。梅と月が一緒に描かれるのは珍しくないが、どちらも愛でたいので、ふたつとも望むのは贅沢だ、ということだろうか。後に正岡子規が月次と非難した気持ちも分からないではない。


 子規といえば、愛媛県松山市の出版社・創風社から刊行された、薮ノ内君代さんの句集『風のなぎさ』が面白い。薮ノ内さんは坪内稔典氏代表の『船団』の俳人。この句集、新書サイズであること、子規ゆかりの地方で出版されたことだけでも、志のあり方が感じられて好もしいが、どのページを開いても楽しく、うれしい句がならんでいる。薮ノ内さんの句集から各季節の一句ずつ四句だけ引用させていただく。
   花嫁をみんなでのぞく桜草
   わたしだらだらかたつむりぐずぐず
   大吉と名付けて金魚しらんぷり
   白菜がごろんと二つ考える
 「船団」調という俳風があるという。そう言われると「船団」調の俳句かもしれない、と思いつつ読んだが、とても愉快だ。俳句を花鳥諷詠の芸術として、第二文芸ではないと肩肘張るのも悪くないが、俳諧精神―おかしみがないと俳句ではない、と私は思う。俳諧精神をお持ちのグループが船団のような気がする。


 今年(子年)が、どうなるか不安だが、俳諧の精神を私も持ち続けたい。