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第22回 軒端の梅 | 2008. 3.26 |
縦19.6×横25.8cm 春が来た。ここ数日、そう実感できる温かい日が続いた。太平洋側の梅はすでに咲いて散ってしまって、桜の季節を迎えたのだろうが、信州―北信濃は梅がようやく咲き始め、桜はまだ咲いていない。近代以前の歳時記と近代以後のそれとの季節感のズレについて、いまさら言うまでもないが、時期が同じでも、東西南北にほそ長い日本列島の季節は、おおいにズレがある。 ここに紹介するのは、地方版の一枚摺。「文政丙戌」は文政九年、一茶はこの次の年に亡くなっている。信陽粟佐は、現在の長野県千曲市粟佐(屋代駅周辺)で、千曲川沿いの小都市である。一茶は、千曲市や長野市など北信濃一帯に門人をもったが、この摺物に見える人たちとは交渉がなかったらしい。 派手さがないが、春を寿ぐ地方版の「春興」一枚摺として貴重である。おそらく、こうした俳諧一枚摺が、各地方で枚挙にいとまがないほど出版されていたのだろう。 ところで、最近、鈴木みのりさんの句集『ブラック・ホール』(ふらんす堂)を読んだ。 金魚一匹自転車に乗って来た 風邪三日猫のリボンの替えてあり みつ豆や墨たっぷりの一を書く 口紅を一気に引けり久女の忌 作者は、数字によって不確かな現実を引き寄せたり、突き放したりしているような気がする。おそらく無意識でそうされているのだが、そこがシュールでおかしい。こうした句が、新書サイズのお洒落な装丁におさまっているのも愉快。みなさまにも、ご一読を勧めます。 |