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第1回 八代団十郎辞世句「白萩や露の玉ちる朝あらし」2004. 3.23


縦24.0×横34.5cm






 秋の気配を感じると寂しくなる」とうっかり女子学生に言って、大笑いされたことがある。秋の夕暮れはとりわけ寂しいのだと日本文学の伝統を話したら、まったく相手にされなくなった。そんな二十歳のお嬢さんも、死の寂しさには共感してくれた。


 掲出句は、八代目市川団十郎の辞世句。朝の嵐に揺れる白萩から露がこぼれ落ちるさまを詠んだ句だが、辞世句であることを念頭におけば、享年三十一で他界した八代目団十郎の潔い哀れさが身にしみてくる。自殺説、他殺説あるが、いずれにしても逝去というほかない。その死を惜しむに余りある。
 初代団十郎から六代市川団十郎までの画像を通覧するには、『美満壽組入』(寛政九年一月 江戸日本橋四日市 上総屋利兵衛刊)が便利。八代団十郎の画像はこの摺物のほかに、図像を掲げた『声色独稽古』(坂東しうかと並んでいる)に描かれていると思うが、私の目の錯覚だろうか。若々しく面長な顔、鼻筋、口、眼、眉が良く似ていると私は思う。豊国画による『役者似顔早稽古』(東都 通油町 鶴屋喜右衛門刊)は、まず鼻、次に口、眼と続けて描くと絵心がない人でも顔の「かっこう」が整うとノウハウを説いている。


 ところで、歌舞伎役者が其角流の俳諧を楽しんでいたことは、よく知られている。総じて役者の発句は、洒落ていて歯切れがいい。役者俳諧とでも名づけたいが、まとまった研究はなく、昭和六十三年刊立教大学近世文学研究会編『資料集成二世市川團十郎』(和泉書院)が、俳諧資料に加えて、充実した年譜を作ってくれている貴重な研究書として名高い。